そったく日記

三重県消防学校

初任科58期 近況(7月後半)

 
梅雨も明け、連日30度を超える猛暑日が続いている。

去年のこの時期は雨ばかりであったが、今年の夏は暑い。

現在実施中の訓練も大詰めだ。

 

消防活動訓練では、防火衣を着装しての訓練が継続中であるが、当初における「暑熱順化」の効果が伺える。

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世間一般で言う「普通」で考えれば、この猛暑の中、サウナスーツ以上の暑さを誇る防火衣を着装しての活動など正気の沙汰ではないだろう。


とある訓練において学生が一言漏らした言葉。「・・・普通じゃない」。
状況を考えればその感想は当然であったかもしれない。

 

なぜそのような「普通」でないことを我々はするのか?
それはあえて書く必要なないと思うが、我々の活動する場面ではそもそも「普通」など無い。現場はそもそもイレギュラーしかないのが前提だ。


災害現場からは、逃げるのが普通であるが我々は違う。
任務遂行、人命救助のために、敢えて危険なそこへ飛び込んでいく。
そのような任務を帯びているからこそ、人一倍の体力、気力、安全管理意識が必要となる。


普通のことをしていて人は助けれない。きついことをして当たり前。辛くて痛くて当たり前。

それが消防の「普通」である。前にも言ったがこの世界では、今の常識など通用しない。

 気合い、根性等の精神論は今の時代、もしかするとあまりそぐわないのかもしれない。しかし、消防において絶対的に重要な要素であることには違いない。

「自分達が何が何でも絶対助ける」。この気持ちが潰えた時点で助けることはできない。 

気持ちが無ければ、あと一歩、あと一手が届かない。

自分自身、死ぬまで後悔するだろう。

 


救助・機器取扱訓練では、人命救助のための直接的技術に内容がシフトした。
結索は?確保要領は?空気呼吸器の取扱いは?はしごの操作は?
基本的技術の点が線で繋がり、初めて人命救助が可能となる。どれが一つ欠けてもできない。応急はしご救助や検索救助はその最も基本となるものである。

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交通救助事案で必要となる油圧式救助器具を使用した車両の開放要領等についての訓練があった。
普段できない訓練、経験である。活き活きとした学生の表情が印象的であった。

要救助者が挟まっているから、どこでも切ったり開けたりすれば良いというものではない。
どこかを展開すればどこかが挟まる。
これは車の構造が解らなければできないことであるし、知らずにやればむしろ危険であり状況を悪化させる。

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車に関連して、余談であるが、学生は車の見た目やブランドに興味があっても、その中身(構造)に興味のある学生は極めて少ない。毎週復校日に消防学校で保有する消防車両の点検を実施しているが、灯火類のスイッチ1つとっても、3か月経過した今でも理解できていないと感じる。
消防人として大切にすべきものは「見た目より中身(構造)」である。

 

近年、ハイブリッド車や電気自動車の普及により、交通救助事案に対して消防に求められる知識、技術は大きく変化してきた。見た目に反して車重は増加、従来の車には無かったモーターに加え大容量の蓄電池。
小さく重い車が激突すれば車体はどうなるのか?相手車両はどうか?大容量蓄電池が載っているということはどのような危険性があるのか?


これはあくまで一例に過ぎないが、人命救助のプロとして、何でも知らなかったでは済まされない。

 

先日、「興味を持つこと」ついて話したが、これは消防活動全部に共通して言える。
消防活動に無関係そうな知識であっても、必ず仕事のどこかで役に立つ。
必要な知識はこれからまだまだ山ほどある。興味を持って様々なことを知る努力をしなければ、災害と戦えない。人も助けれない。だから、興味を持って知ることは、義務である。

 

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「体育理論」の授業ではタフ・ジャパン鎌田講師に丸1日ご講義をいただいた。
毎年、本校の初任科教育にお越しいただいており、全国の初任科生を見てこられている消防体育教育のプロである。
我々、教官とは違った目線での熱い講義、アドバイスをいただけたことだろう。
手厳しいことも指導されたと思う。それが、率直な外から見た今の学生の印象だ。
現状のままで良しとするか、恥ずべきことであると感じるか。

次は8月の救助科教育にお越しいただく予定である。先生が最後におっしゃった「まだまだ十分期待できる」この言葉に報いるよう改め、その時に変わった姿をお見せできるよう努力し結束してもらいたい。

 

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先週、東京オリンピック開会式の日、初任科において、救助大会を実施した。
これは、技術はもとより、団結心、チームワークを更に向上させる目的でここ数年、毎年実施している。
内容としては基本的ロープ技術であるが、競争事となるとどの年も大いに士気も高まる。1位を目標に各学生が日課外等を利用して練度を向上させてきた。

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本番に強い者、本番で初めて失敗する者、あらぬトラブルに見舞われる者。
できる限りの万端の準備で臨めただろうか?
結果を残せた者もいれば、そうでない者もいるだろう。


自分個人としては、今大会を通して、初任科全体の士気、団結力はそれまでに比べ大きく向上できたと思う。
自分だけ良ければ良い。これまでそのような者が多く見受けられたが、班単位でうまくフォローできていた。


あとは今の良い状態を維持、更に伸ばすだけだ。


開催にあたり、多くの教官、職員、一部学生が動いてくれた。
この行事は、できて当然ではない。このことに限ったことではないが、全てのことに支えてくれている人がいることを十分自覚して、誠実に取り組んでもらいたい。


前述のとおり、開催したのは東京オリンピックの開会式の日だ。この先、数十年経とうがこの日は忘れないだろう。

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コロナ禍。この言葉が出始めて1年半あまり経つ。
国難と言える状況にあり、未だ終息の見込みは無く各方面で戦いは続いている。


消防職員のワクチン接種は、一部を除きほぼ完了していると聞く。
初任科の学生においても例外ではなく、学生の7~8割が各消防本部単位で接種を受けた。

国民の大半が受けれていない中で、まだ現場にも出ていない学生が何故、接種してもらえるのか?
それは、来る卒業を迎えたとき、翌日から即戦力となって最前線で活動するためであるからに他ならない。

また、今この瞬間でも、県内全域で大規模災害が発生したならば、学生は各所属単位で災害対応にあたることとなる。

 

コロナ渦という混乱の中で、職を失った、収入が激減した人たちも多くいる。
日々、疲弊しながらぼろぼろになって戦っている人もいる。

 

君たち学生はどうか?

 

命の危険は極めて低い管理された環境下で訓練ができ、快適な場所で座学を受け、食堂では栄養バランスが徹底的に考えられた食事が摂れ、夜は寮室の布団で眠ることができる。 そして、月給は支払われる。

 

これは当然か?

何のためなのか?

 

平時においても同じだが、自分たちの境遇に感謝しなければならない。

どれほど恵まれているのかを。

 

自覚しているならば、行動、態度で示せるはずだ。

 

この世の中において、それがわからないのであれば、消防人として不適格である。そもそも職業選択の時点で誤っている。

人の痛みを知り、君たちにかけられた多くの期待を裏切ることなく、団結して全員で誠実に取り組め。

 

間もなく初任科前半が終了する。
盆明けからは、初任科は一時中断し、救急科へ突入する。

 

なぜか例年、この時期になると気が緩みがちである。
気が緩むと、あらゆる箇所にそれは現れる。整理整頓、行動、態度、目つき、顔つき、髪の毛・・・その他ありとあらゆる場所に出る。


断捨離という言葉をよく聞く。本来これは物に対しての言葉であるが、精神面に当てはめるならば、今の君たちに、浮ついた気持ちなど一切不要だ。

 

優先すべき事は何なのか?

娑婆での夏の甘い青春などを期待する余裕はない。

 

当初にも言ったが、「性格は顔に出る」「生活は体に出る」である。

人が見ている前だけ良い格好をするようなせこい心は捨て、常に物心両面の準備をし、即応態勢を確立せよ。

周りを気遣い、小さなことに気づけ。

 

体はHOTに頭はCOOLに。

 

 

初任科中断まであと約3週間、各教官はこの間の取り組みを見ている。
家族をはじめ、全ての支えてくれている人に感謝して、今の良い雰囲気を大切に、全力で取り組め。

 

期待する。

 

 


雑 記
前回、初任科近況を伝えた3日後、ツバメは全て飛び立った。
飛び立った後、数日は巣の周りにいたが、いつの間にかいなくなってしまった。
今は哀愁漂う空き家となった巣が残るのみ。

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世間で問題となっている「空き家」であるが、今年度は「空き家率」が全国で過去最高を記録した。
ちなみに三重県は空き家率が高いランキングで現在全国19位である。


消防の世界でもこの「空き家」は度々問題となる。

学生には普段から色々な情報のアンテナを高くもってほしい。

 

来年度、自分はいないが、ツバメはまたここへ帰ってくることを期待したい。

 

担当KR