そったく日記

三重県消防学校

初任科58期 最終週


4月から始まった初任科も残すところ、あと4日となった。
毎年感じるが、救急科が終わってからの初任科後半は、あっという間だ。

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学生61名はこの期間、「即戦力となる警防隊員」になるための様々な教養、訓練を重ね、総合的な科目となる消防活動総合訓練では、各種想定における火災防御要領について、担当する教官の熱い指導のもと、訓練に取り組んだ。

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燃えているなら何でも水をかければ良い訳ではない。中に人がいるなら何でも飛び込めば良い訳ではない。

消火、人命救助のプロであるならば、知識、経験などの根拠に基づいた一瞬の判断が必要になる。

現場の経験は学生にはまだないが、訓練で重ねて得たことも経験だ。

 

消防に関する知識や技術は、やればやった分自分の身に着くが、「経験」はそうではない。大金を積んだとしても買えるものでもないし、教われるものでもない。

 

訓練に限ったことではないが、何か仕事をやり終えたならば、その過程、結果を一度振り返るべきである。

やりっぱなしは、経験にはならない。1回1回の訓練、現場をよく振り返り、確実に自分の経験としてもらいたい。

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来週から、学生は「学生」でなくなり、1人の隊員として各所属で火災を初めとする災害へ出動する。

何度か火災出動を経験すると、悪い意味での慣れが出てくる者がいる。この悪い慣れは絶対にいけない。

 

各教官からもあったとおり、前と全く同じ災害など無い。

100回似た同じシチュエーションがあったとしても、101回目にまた同じになるとは限らないし、それがたとえ1000回同じであったとしても、舐めてかかることなく、出動する現場は常に初心で、疑ってかからなければならない。

 

そうでなければ要救助者や、仲間、自分自身にとって取返しのつかない事故、失敗を招いてしまう。

 

我々に失敗は許されないし、「次は頑張ります」の次なんて無い。

 

 

良い方向へ慣れるのは結構だが、慎重さと、警戒心を絶対に欠いてはならない。

 


全ての場面で指示、命令を貰える訳ではない。自分で判断し、自分で行動しなければならない場面も多々ある。

それができなければ我々消防の任務を遂行することはできない。

 

度々言ってきたが、ただ火に向かって水をかけるだけならば、我々でなくとも誰でもできる。それだけでいいのなら、そもそも「消防」という組織は存在しないだろう。

 

どんな世界でもその道のプロがいる。消火、人命救助のプロとしての自覚と自信を持ち、おごる事無く、一手、二手先を見据えた活動を心掛けてもらいたい。

 

物心両面の準備
即応態勢の確立


これらを消防人である限り大切にしてほしい。

 

現場で迷うこともあるだろう。

そのときは「何が一番住民の利益となりえるか」を考えればその答えは出るはずだ。

 

強く優しい心で、被災者、要救助者に寄り添え。

この仕事は優しさがなければできない。

 

去年中の全国での火災発生件数は34,691件で、これは1日平均95件、15分に1回火災が発生していることになる。

今、この瞬間にも日本のどこかで火災と戦っている仲間がいることを忘れてはならない。

 

 

11月20日(土)快晴

各消防本部消防長、学校長、学生家族の臨席のもと、総合査閲訓練を実施した。

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この総合査閲は、この8か月間で培った技術等を披露、報告する場であり、初任科教育の集大成と言える。

今年度は感染症対策のため、去年同様、一部を縮小した形で開催されたが、その分内容は濃く、担当としては、これまでの成果を学生全員が遺憾なく発揮ができたと認める。

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この初任科教育が、総合査閲のためにあるわけでは決してなく、これに向けての訓練は非常に少ない時間しか設定ができない。


魅せる場として、学生主体で訓練構成、披露要領を計画する訳だが、最初はどの訓練種目を見ても要領を得ず、心配になるレベルであったが短期間でよく仕上げてきたと素直に感じる。

 

また、総合査閲は先に書いたとおり各消防長、学校長に成果を披露、報告する場である。しかし同時に、これまで支えてもらった家族へ成長した姿を見てもらうという側面もある。

 

家族が我々消防職員の活動する姿を目にする機会は非常に少ない。

どのようなことをやっているのか?やってきたのか?

訓練の様子を見ていただける良い機会であったと思う。

 

総合査閲終了後、数組の学生ご家族とお話しする機会があった。

印象的であったのは、「強く成長した姿を見れてすごくよかった。でも、訓練を見てやっぱり危険な仕事なんだなと、目の当たりにして今までよりすごく心配になった」と話された方がいた。

 

これが、ご家族の率直な気持ちであると思う。

 

消防の任務は極めて危険であるというのが、世間一般の認識であり、実際その通りである。

自分が育ててきた息子、娘がそんな世界で仕事をしていくことに、心配しない家族は恐らくいない。

しかしながら、消防職員となり、学生がこれまで消防学校で教育を受け、卒業を控えているこの状況にいれることは、決して一人で来れた訳ではなく、家族の理解と支えがあったからに他ならない。

 

これまでも、色んな心配をかけてきただろう、そして卒業し、現場へ配属され、今後も心配をかけることになるのだろう。

 

人命救助最優先。この言葉通り、我々は敢えて危険な現場へ飛び込んでいく。

しかしその人命救助の「人命」には自分の命も含まれていることを忘れないでもらいたい。

 

勇敢と無謀は違う。

 

消防の仕事に理解を示してくれている家族に、最大限の感謝の気持ちを持って、日々を過ごし、安全・確実・迅速に任務を遂行してもらいたい。

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初任科終盤にあたり、知見を広める為に各種校外研修を実施した。

 

尾鷲への防災研修、防災航空隊研修、山岳機動訓練。

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消防の任務は多岐に渡り、そのための知識、技術の引き出しは多いに越したことはない。

引き出しは多いほうが良い。しかし、その引き出しの中は整理されていなければならない。

実際の引き出しも、中がぐちゃぐちゃでは使いたいものがすぐに出せないはずだ。

 

得た知識は、漠然と覚えておくのではなく、好奇心と興味を持って掘り下げ理解しておくと、使う時にその効果を最大限発揮できるものである。

 

これらの校外研修、少しでも学生の引き出しとなったならば、実施した意味は大いにあったと思う。

    

 

 

 

冒頭でも触れたが、この初任科58期も残すところあと、4日である。

 

これも毎年感じることであるが、4月当初に教育が始まった際は、12月など遥か先のことであると感じるものの、8か月間は本当にあっという間だ。

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入校直後、性格は顔に出るという話しをした。

また今日は、置かれている環境によっても人の顔は変化していくという話しもした。

 

担当としては、学生の顔つきは、まだ子供のようであった入校時に比べ、それぞれが精悍な顔つきになったと感じる。

顔つきが変わったということは、各人の内面が何か変わったということだ。

肩書だけの消防士から、教育を経てようやく半人前の半分くらいの消防士となれたのではないか?

 

一人前など程遠いし、そもそも消防人に一人前という概念はないと個人的には思う。
  
消防人であるならば、自分はまだ半人前だという謙虚さと慎重さが必要だ。

消防人である限り、一生、勉強、研究である。
  

自分自身でリミットや線を引けば成長は止まる。

我々消防人には前進しかなく、後退は無い。

後退が許されるのは、自分の身に危険が迫ったときのみだ。

 

残り4日、初心を忘れることなく、最後の最後まで全力で向かってきてもらいたい。

 

体はHOTに頭はCOOLに。

最強、精鋭の初任科生であれ。

 

担当KR

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