初任科教育が開始され、既に約2か月が経過した。
本校では、初任科教育及び救急科教育を連続して実施するため、入校期間はトータルで約8か月に及ぶが、そのうち初任科教育は約6か月であり、2か月と言うと、その3分の1を修了したこととなる。
この初任科6か月の期間を長いと見るか、短いと見るかは学生によって違うかもしれないが、個人的には「6か月しかない」と感じる。
何も知らない何もできない状態から、危険を伴い、人命を預かる「消防士」として現場へ出動するために訓練、準備できる時間は半年しかない。
消火、人命救助のために消防には数多くの資機材がある。「消防機械器具・ポンプ」のとある時間では、実車で車両、ポンプ構造について確認をした。
ポンプが水を出せるのはなぜなのか?どのような原理で水を吸い上げるのか?これらは基本構造、原理を理解できなければわからない。
資機材の構造を熟知し、日々の点検整備を行うことは非常に重要なことであり基本である。
資機材や車両を単純に使うだけ、運転するだけなら教われば消防士でなくともできる。これらの特性、構造を知った上で適切に扱い、不意のトラブルに対処し故障排除できることが消防士である。
まずは興味を持つことからだ。
消防活動訓練、救助・機器取扱訓練では全てを安全・確実・迅速に遂行することが求められる。
時間を掛ければ安全・確実にできることは当然であるが、消防ではそこに迅速さが必要となる。
しかし、いたずらに迅速さを求めれば、基本動作が疎かになり、安全、確実性は著しく損なわれる。
学生は、迅速さ、目先のかっこよさに惹かれる傾向がある。ユーチューブ等で色々調べるのは結構だが、そのような技術や、方法はまだまだ学生には早い。
ぎこちなくてもいい。今は基本基礎動作を徹底し、まずは安全・確実性を固めることである。
意図開示は周囲に聞こえるよう大きくはっきりと。
確認呼称は必ず目で確認し口に出す。
何をしても基本に忠実に。
先日、三重テレビ放送が取材に訪れた。県民の方に士気の高さを見ていただける絶好のチャンスであったと思う。放送日が楽しみである。
消火のためには水が必要だ。しかし、戦う相手は火だけではない。時には水が敵となる場合もある。
先日は2日に渡って「水防工法」を実施した。
そもそも実戦において、水防活動を天気の良い日にすることは少ない。
訓練時に雨が降らないなら降らせばいい。
4個水防中隊を編成し、女子学生4名をそれぞれの中隊長に指名。土嚢を1000袋作成してから今回は4つの工法の作成要領について訓練したが、出来は概ね良好であったと感じる。
団結心も向上したことだろう。
入校当初に言ったように、ここでのことは全てが繋がっており、意味がある。
学生に何故消防へ入ったのかを問うと、大半が「人を助けたいからです」と答えるが、ここで学ぶことは全てが「人命救助最優先」の消防の任務、理念に通じるものである。
よって、当たり前であるがそれを達成しようとするならば、得意、不得意はあるかもしれないが、科目の選り好みは許されないし、どれが欠けてもいけないものである。
「人を助けたい」はそんな簡単ではないし、軽いものではない。生半可な覚悟と努力ではできない。
初任科教育の目的は、「即戦力となる警防隊員の養成」にある。
即戦力。言葉としては世間でもよく耳にする言葉であるが、学生には消防におけるこの言葉の意味をよく理解し、考えてもらいたい。現状の取り組み方で、救急科を含む全ての期間8か月を修了したときに即戦力となれるのかを。
ここで得るべきものは、知識、技術だけではない。それだけではとても即戦力とは言えない。
三重県では、消防職員採用後、よほど特別な事情が無い限り採用直後の4月から消防学校に入校し初任科教育を受ける訳であるが、全国的に見ればこれは当たり前ではない。その中で救急科も同時に実施、修了できるのは更に少数派となる。
よほど恵まれた環境下にあることを再度自覚してもらいたい。
また、消防の世界に入り、最初の試練であるこの初任科に全力かつ誠実に取り組むことができなかった者が、卒業し各所属に戻ってから自身の職務に全力で取り組めるとは到底、思えない。
今の自分は全力なのか?
訓練、座学に取り組む姿勢は? 声は? 服装は?
物心両面の準備はできているか?
課業後等の空き時間の過ごし方はどうか?
規律を遵守できているか?
まだ学生気分で過ごしていないか?
住民の方は、全力でない、努力をしない消防士など求めていない。助けてほしいと思わない。助けてもらえると思わない。
各所属も全力でない隊員など求めていない。
楽な道と厳しい道があるとするならば、今は徹底的に厳しい道を進むべきである。
どの世界でも同じであるが、2か月経つと、色々と慣れてくる頃である。メッキが剥がれ本質が見えてくる頃でもある。
訓練、座学面でも差がついてきた。危機感を持ってもらいたい。
学生が思っているより、我々教官はよく見ている。
もちろん住民の方もよく見ている。
笑って誤魔化したり、薄っぺらい取り繕いは通用しない。
顧みて、自分はできない、劣っていると悲観する必要はない。
努力すれば伸びる一方であるからだ。
今後ますます暑い時期になる。
体はHOTに頭はCOOLに。
来週以降も期待したい。
雑 記
正面玄関横にツバメが営巣している。自分は教官3年目であるが、毎年この時期になると同じ場所に戻ってくる。出勤すると、玄関に入る前にツバメの状況を見るのが日課であり、ささやかな楽しみでもある。
6羽の雛が確認できるが、成長はとても早い。ついこの間までは並んで頭をほんの少し覗かす程度であったが、最近は大きくなって巣に収まりきらず、はみ出ている。
ツバメは孵化から約3週間程度で巣立つ。大きさから見るに飛び立つ日は近い。
学生は巣立ちまであと約半年。今後の成長が楽しみである。
担当KR